【皮膚科/耳科シリーズ】実践的な診療フロー ④検査編「真菌検査・細菌検査」

Vet Derm Tokyoの代表皮膚科医であり、アジア獣医皮膚科専門医の伊從慶太先生に、皮膚科と耳科の診療の流れについて記事を執筆いただきました。

第4回目となる今回は、検査編「真菌検査・細菌検査」について、お届けします。

※第1回「問診票の記入・問診・身体検査・鑑別疾患の考慮」はこちら
※第2回「検査(ノミ取り櫛検査・ウッド灯検査・皮膚掻爬物直接鏡検)」はこちら
※第3回「検査(毛検査・細胞診)」はこちら
※第5回「検査(皮膚生検・アレルギー検査・耳鏡検査)」はこちら
※第6回「診断と処置(洗浄と保湿)」はこちら


【5】検査法
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◆真菌検査
適応
皮膚真菌症における抗真菌薬の選択、感染源対策、無症候性キャリアの検出や治療終了の判定をする上で、重要な検査である。

手法
皮膚糸状菌症では滅菌した抜毛鉗子や鋭匙を用いて、鏡検下で皮膚糸状菌の感染が確認された部位やウッド灯検査にて黄緑色蛍光を発した部位より被毛や鱗屑を採取する(写真12)。

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写真12:ウッド灯検査。

明らかな皮膚症状がない個体や同居動物にはブラシ培養を用いる。ブラシ培養は滅菌した歯ブラシで体全体を拭き取り(写真30)、培地上にブラシの先端部を切り落として接種する。

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写真30:真菌のブラシ培養法。滅菌された歯ブラシを用いて、病変部あるいは非病変部を拭う。

主にサブローデキストロース寒天培地、Dermatophyte Test Medium(DTM)培地が汎用されるが、推測される原因菌によって培地を使い分ける必要がある(クリプトコッカス、カンジダ、アスペルギルスなどはDTM培地において発育しない場合がある)。
 
院内で真菌培養同定を行う場合は、約27℃下で培養を行い、培地色の変化やコロニー形成を毎日観察する。外部検査機関に培養検査を依頼する場合には、郵送までの間は4℃下で保存する。

外注先と検査の解釈
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複数の動物用検査機関において外注可能であるが、人に伝播しうる真菌種の感染が疑われた場合、事前に検査機関に相談する必要がある。
 
真菌培養同定検査は採取した部位に存在した真菌を確認する検査であり、感染の証明は皮膚掻爬物直接鏡検、毛鏡検、細胞診、病理組織学的検査により行う必要がある。

皮膚糸状菌の培養
皮膚糸状菌は発育初期にタンパク質を分解利用するため、コロニー形成時にDTM培地がアルカリ性に傾き、培地内のフェノールレッドにより培地色が黄色から赤色に変化する(写真31)。他の多くの真菌は発育初期に炭水化物を利用するため培地色は初期に赤変しない。 Microsporum canisは白色、綿毛状のコロニーを形成する(写真31)。

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写真31:皮膚糸状菌培養におけるDTM培地の変化。接種した検体の周囲の培地色が初期に赤変し、培地の赤変が広がるとともにコロニーを形成する。図はM. canisのコロニーであり、白色、線毛状の外観を呈している。

M. gypseumは、表面が扁平~顆粒状、黄褐色~淡黄色の粉末状のコロニーを形成する。 Trichophyton mentagrophytesはクリーム色で表面が扁平な粉末状のコロニーを形成することが多いが、顆粒状、綿毛状などさまざまな形態のコロニーも形成する。
 
コロニーが形成された場合は分生子の観察を行う。スライドグラス上にラクトフェノールコットンブルー溶液を1滴おき、コロニーからピンセットやテープなどで採取した検体を接種して直接鏡検する。
 
M. canisの大分生子は紡錘形であり、壁が厚く、隔壁により分けられた細胞数が多い(写真32)。M. gypseumは棘を有する樽型の大分生子を形成し、壁は薄く、隔壁により分けられた細胞数が少ない(写真32)。

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写真32:皮膚糸状菌の大分生子の形態。<左図>M. canis:紡錘形であり、壁が厚い。隔壁により分けられた細胞数が多く、通常は6個以上である。<右図>M. gypseum:棘を有した樽型壁で、壁は薄い。隔壁により分けられた細胞数が少なく、通常6個以下である。

T. mentagrophytesは多数の大分生子を形成しない場合がある。形成された大分生子は葉巻状であり、薄く滑らかな(棘のない)壁を有する。


◆細菌検査
適応
他の皮膚科学的検査で細菌の感染が証明された場合、感染源の同定や適切な治療戦略を立てる上で極めて重要な検査である。

手法
外注検査を用いる場合はシードスワブを用いる(犬の表在性膿皮症では好気性培養のみで対応可)。犬の表在性膿皮症において検体を採取する発疹としては膿疱や丘疹が推奨されるが、新鮮な膿疱から採取することが特に望ましい(写真33)。

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写真33:細菌培養検査の検体採取に適した原発疹。膿疱(A)や丘疹(B)などの原発疹から採取する。

続発疹の中では鱗屑が環状に配列する発疹(表皮小環)より採取する(写真34)。

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写真34:細菌培養検査の検体採取に適した続発疹。新鮮な原発疹が認められない場合は、環状に鱗屑の配列した表皮小環から採取する。鱗屑を除去し、その下部より検体を採取する。

びらんや痂皮などでは原因菌以外のコンタミネーションが起こっている可能性が高い。

膿疱から検体を採取する際は膿疱表面および周囲をアルコール綿などで消毒し、25Gの注射針などを用いて膿疱表面を切開し、膿を圧出させて採取する。丘疹の場合は表面より採取するのではなく、丘疹を指で絞って滲出液を採取する(写真35)。

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写真35:丘疹を指で絞って出現する滲出液を採取する。一度に複数の丘疹から採取しても良い。

表皮小環では消毒したピンセットを用いて鱗屑をはがし、その下部から採取する。結節~腫瘤などの深在性感染を疑う場合は、針吸引や生検サンプルより培養を実施する。
 
耳道の浅部感染ではスワブで膿や滲出物を採取する。耳道の深部感染では浅部を生理食塩水などで洗浄した後、カテーテルなどで深部の膿汁や滲出物を採取する。
 
深在性膿皮症や耳道の深部感染の場合は嫌気培養も考慮する。採取したサンプルは郵送時まで冷蔵保存(4℃下)する。

外注先と検査の解釈
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外注先としては、小動物由来菌を正確に同定可能な検査機関を選択すべきである。
 
犬の表在性膿皮症の主要な原因菌はコアグラーゼ陽性ブドウ球菌のStaphylococcus pseudintermediusである。本菌は一般的な生化学性状のみでの同定は困難であり、同定にはPCR法など分子生物学的な手法が必要である。したがって、分子生物学的な手法を採用していない検査機関、一部の人用の検査機関ではS. pseudintermedius が非病原性のブドウ球菌として判定されることも少なくない。
 
一方、動物用検査機関では正確な菌種同定を行わないクイック薬剤感受性検査も存在する。菌種により薬剤感受性試験の基準は異なるため、正確に菌種を同定しなければ誤った基準で感受性試験が実施されるリスクがある。
 
薬剤感受性試験の結果は「耐性」、「感受性」、「中間」の表記で示されることが一般的であり、犬や猫における感受性検査の基準としては主に人の病原菌の基準が採用されている。
 
近年、βラクタム系抗菌剤を含む数種の抗菌剤における感受性検査の判定基準が、犬と人のブドウ球菌種で異なる可能性が報告されている。人と小動物間に存在する種差が結果に影響する可能性に留意し、「耐性」、「感受性」、「中間」のみで判断せず、試験の結果(主にディスク感受性試験の阻止円直径)を参照することが望ましい。
 
※本記事の執筆者・伊從先生が所属される株式会社VDTの細菌検査についてはこちら


次回は検査編「皮膚生検・アレルギー検査・耳鏡検査」!
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本記事の続きとなる第5回検査編「皮膚生検・アレルギー検査・耳鏡検査」についてはこちら

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ライター紹介

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山口 杏

ブライダル業界・インフラ業界・そして前職ではペットフード業界と、さまざまな業界を渡り歩く編集者。「情報を制する者が、マーケットを制す!」という思いから、Vet Lifeを通じ、飼い主さんのニーズや獣医療業界の最前線情報を届ける、お役立ちライターに成長したいと考えている。趣味は動物ブログを読むこと。好きな犬は柴犬、猫は茶トラ。

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