【獣医師の臨床5年目までの考えと動き方を知る③】伊從慶太先生(Vet Derm Tokyo)インタビュー

多忙を極める獣医療業界において、第一線で活躍する獣医師たちがどう学び、どうキャリアを築いていったのかをご紹介する本シリーズ。

第3弾となる今回は、皮膚科を専門としていらっしゃる伊從慶太先生にお話を伺います。
すべてを網羅するのではなく、来院数が多い疾患に絞って勉強
201707311705_1.jpg
 伊從 慶太 先生(Vet Derm Tokyo) 
【経歴】
麻布大学卒業。岐阜大学大学院にて博士号を取得。アジア獣医皮膚科専門医。


伊從先生が、皮膚科の専門医を目指されたきっかけを教えてください。
皮膚の構造や機能への興味と、ヒト医療にも通じる点に魅力を感じた
201707311705_2.jpg

私は学生時代、解剖学の研究室に所属していたので、さまざまな正常な臓器をみる機会が多くありました。

ある時、マクロの解剖からミクロの解剖までゼミをやる機会があり、私は口腔粘膜や舌を担当していたので、連続する皮膚も勉強するようになりました。そこで、皮膚は他の臓器にはない特殊な構造や機能をもっているということを知り、魅力を感じるようになりました。

そして、解剖学で正常な皮膚組織を学んだ後、「次は皮膚病の組織をみてみたい」と思うようになり、教授に相談したところ、東京農工大学の内科学研究室を紹介していただきました。

当時、東京農工大学の大学病院には皮膚科の症例が午前中だけでも30件以上来院していて、多いときは40~50症例も診療していました。二次診療施設にこれだけ多数の症例数が集まることに、当時は驚愕しました。

また、獣医皮膚科学は古くから存在していることから学問として厚みを感じ、興味を持ち始めました。さらには、東京農工大学では、ヒト医療の皮膚科と共同研究が行われていたので、獣医皮膚科学を通して人類へも貢献できるのではないかと思い、この道を選びました。


伊從先生は、キャリアが浅い頃にはどういった勉強をしてスキルアップを図っていらっしゃいましたか。
来院数が多い疾患を中心に、とにかく多くの症例をみる・触る!
201707311705_3.jpg

最初は教科書を全部読むのではなく、来院数が特に多い疾患を中心に勉強をしました。難しくて症例数の少ない免疫介在性疾患よりも、アレルギーや感染症から取り組みました。

皮膚科は臓器(皮膚)そのものを直接みることができる診療科のため、検査うんぬんよりも、とにかく多くの症例をみる・触るように心掛けていました。
 
その他には、時間があるときは大学に保管されている症例写真をみるようにして、皮膚科の生命線である“視診の力”を養うようにしていました。

皮膚科は「話す科」とよくいわれますが、問診からインフォームまでのトーク力がとても重要です。いろいろな皮膚科の先生方の考え方・話し方をみせていただきながら、どうやって問診から診断、最後のインフォームまでもっていくか、自分に合ったスタイルを徐々に確立していきました。


現在、一次診療の動物病院で行われている皮膚科診療について、どのような印象をお持ちでいらっしゃいますか。
皮膚科は長期的にみるとメリットも大きいので、より真摯に向き合ってもらいたい
201707311705_4.jpg

他科に比べると、即、命に関わる病気でないことが多いためか、診察時間が十分でない印象があります。

また、特殊で煩雑な検査も少ないため、何となくパッとみて仮診断をし、薬を処方している方も少なくないと思います。たとえ診断が間違っていたとしても、すごく体調が悪くなるということもないので、「とりあえずステロイドや抗菌薬を出しておけば、ある程度は大丈夫」と、残念ながら何となく皮膚科診療をされているケースが見受けられます。

診療報酬の面でも、皮膚科は1回の診療単価が安いため、あまり時間をかけていられないのかなと思います。
 
ですが、日常的に遭遇する皮膚疾患は、アトピー性皮膚炎などをはじめとした完治が困難なものが多く、長期通院が必要となります。したがって、長期的な視点で考えれば、皮膚科症例は病院にとってもメリットが大きいと思います。
 
飼い主様から「皮膚すらしっかりみられない動物病院にはうちの子を任せられない!」といった意見を聞いたことがあるので、ぜひ皆様にも皮膚科に力を入れていただければ幸いです。


皮膚科診療のスキルをアップするためには、まずどのようなことから励めばよいでしょうか。
来院数が多い疾患の勉強と皮膚科に力を入れられる環境整備が大切
201707311705_5.jpg

一次診療で遭遇しやすい皮膚疾患は、10種類以下に限られていると思います。その10種類だけを一生懸命勉強しようと思ったら、数カ月でカバーできるようになります。教科書をイチから網羅的に勉強するのではなく、まずは来院数が多い疾患だけに絞って勉強するとよいと思います。
 
その他には、皮膚科に力を入れる時間を増やしていただけたらと思います。皮膚科の担当者を決めて、皮膚科をじっくり診察できる時間帯や診療日を設けること、また予約制の導入などの工夫が必要です。そのためにも、病院として「皮膚科を頑張ろう」という環境づくり、スタッフ教育に取り組んでいただくことも大切だと思います。


若い先生方にお伝えしたいことはありますか。
人との出会いやつながりを、自分から動いて生み出していこう
201707311705_6.jpg

私は、出会いや人のつながりを大切にすることが重要だと思っています。学生のときに皮膚科診察をみたいと教授に相談をしたら東京農工大学を紹介していただき、獣医皮膚科のトップの先生方と出会って、たくさんのことを学ぶことができました。
 
東京農工大学は、大学院~皮膚科レジデント過程と長く在籍しましたが、指導してくれる先生、研修に来られた先生、大学院生、皮膚科以外の診療科の先生、学生など、さまざまな人とコミュニケーションを取るようにしました。そのつながりからたくさんの新たな勉学・研修の場を得ることができ、さらには今の仕事の礎を確立できたと考えています。
 
このようなチャンスは、待っていても来ないと思います。自分からどんどん動かないと道は開けないので、よい意味で図々しくやるべきかと思います。


最後に、伊從先生の今後の目標を教えてください。
皮膚科の有用な情報の発信・活用で獣医療の発展に寄与し、また後輩の育成にも携わっていきたい
201707311705_7.jpg

私が所属しているVet Derm Tokyoは、国内のさまざまな地域の病院と連携して、皮膚科診療と研究活動を行っています。この活動を通して得られた皮膚科や耳科の“新鮮な情報”を、臨床の先生方にタイムリーに還元していきたいと考えています。さらには、診療・研究活動を通して得られたビッグデータをまとめ、世界にとっても有用な情報を発信し、日本を含めたアジアの獣医皮膚科の地位をもっと高めていきたいです。
 
また、自分が先輩方に育てていただいたように、私よりも若い先生方に、今持っている知識や技術、コミュニケーション術のすべてを教えていきたいです。最近話題の、将棋の藤井聡太さんのように、二手、三手、さらにはその先を冷静に読んで、多面的な皮膚科診療ができる人材を育てていきたいと思っています。

(記事提供:CLINIC NOTE 2017 JULY 90-91.)


他のキャリアインタビュー記事はこちら!
201707311705_8.jpg

※第1回「中村篤史先生(TRVA夜間救急動物医療センター)インタビュー記事」はこちら
※第2回「小笠原聖悟先生(小笠原犬猫病院/IDEXX Laboratories)インタビュー記事」はこちら
※第4回「梅田裕祥先生(横浜どうぶつ眼科)インタビュー記事」はこちら

ライター紹介

56_ext_01_0.jpg

山口 杏

ブライダル業界・インフラ業界・そして前職ではペットフード業界と、さまざまな業界を渡り歩く編集者。「情報を制する者が、マーケットを制す!」という思いから、Vet Lifeを通じ、飼い主さんのニーズや獣医療業界の最前線情報を届ける、お役立ちライターに成長したいと考えている。趣味は動物ブログを読むこと。好きな犬は柴犬、猫は茶トラ。

関連タグ