【皮膚科/耳科シリーズ】実践的な診療フロー ⑥診断と処置(洗浄と保湿)

Vet Derm Tokyoの代表皮膚科医であり、アジア獣医皮膚科専門医の伊從慶太先生に、皮膚科と耳科の診療の流れについて記事を執筆いただきました。

第6回目となる今回は、「診断と処置(洗浄と保湿)」について、お届けします。

※第1回「問診票の記入・問診・身体検査・鑑別疾患の考慮」はこちら
※第2回「検査(ノミ取り櫛検査・ウッド灯検査・皮膚掻爬物直接鏡検)」はこちら
※第3回「検査(毛検査・細胞診)」はこちら
※第4回「検査(真菌検査・細菌検査)」はこちら
※第5回「検査(皮膚生検・アレルギー検査・耳鏡検査)」についてはこちら


【6】診断
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問診、身体検査、各種検査によって統合的に確定診断を行う。

診断を下した後も鑑別として考慮した疾患の可能性も意識しながら、治療計画・モニタリングをすべきである。


【7】処置
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皮膚科や耳科疾患の診断が下った後は、院内において処置を行う。

病院で行う処置の必要性をオーナーに実感してもらうことで、定期的な通院を促すことが可能となる。

洗浄と保湿
皮膚疾患の治療において洗浄と保湿は非常に有用なツールとなる。洗浄と保湿は疾患の治療のみならず、健康な皮膚の維持、疾患の予防のために極めて重要である。基本的に洗浄を行った後は必ず保湿をして皮膚を整える必要がある。
 
・製剤の選択
・洗浄剤の考え方
・保湿剤の考え方
・洗浄法

製剤の選択
洗浄剤や保湿剤を選択する際には、診断した皮膚疾患や肌質に合った成分を考慮する(表2)。

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表2:洗浄剤と保湿剤(2016年6月11日時点。画像をクリックすると別画面が開き、より鮮明に確認できます)

薬用シャンプーは有効(薬効)成分のみが注目されがちであるが、界面活性剤などの性質に関しても理解する必要がある。

製剤の選択にはオーナーの趣向やライフスタイルを考慮する。複数の製剤が選択肢として上がった場合は、サンプルの配布や院内処置を通してオーナーに選択を委ねる。

洗浄剤の考え方
洗浄剤には固形石鹸やシャンプーのような界面活性剤型と、クレンジングオイルなどの溶剤型に区分される。
 
犬や猫の洗浄剤では界面活性剤型が主流であったが、溶剤型製剤(1)も増えている。
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(1)溶剤型製剤の一例:AFLOAT DOG VETシリーズ クレンジングオイル


また、界面活性剤型・下洗い用の洗浄剤(2)も利用可能である。
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(2)界面活性剤型・下洗い用の洗浄剤の一例:ゾイック スーパークレンジング

皮膚科診療で汎用される薬用シャンプーはあくまでも“薬用”であり、皮膚の汚れを除去することに特化した洗浄剤ではない。したがって、溶剤型洗浄剤や下洗い製剤などを薬用シャンプー前に使用することで、汚れを効果的に落とし、薬用シャンプーの効能を引き出すことが期待できる。
 
シャンプーに含まれる界面活性剤の種類にも着目する。界面活性剤の分類としては石鹸系、高級アルコール系、アミノ酸系が挙げられる。

石鹸系や高級アルコール系は高い洗浄力と起泡力を有するが、皮膚の刺激性やキューティクルの開きが問題となる。一方、アミノ酸系界面活性剤は起泡性が劣るものの、刺激性が少ない利点がある(乾燥肌やアトピー性皮膚炎などで使用しやすい)。

小動物用のシャンプーに含まれる界面活性剤は高級アルコール系が一般的であるが、アミノ酸系界面活性剤配合製剤(3)も利用可能となっている。

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(3)アミノ酸系界面活性剤配合製剤の一例:AFLOAT DOG VETシリーズ 低刺激 シャンプー

薬用シャンプーであっても1種類のみで皮膚トラブルに対応することは難しく、複数の製剤を併用することが望ましい。

例えば犬の皮膚でブドウ球菌が増殖していた場合、ブドウ球菌数を減らすために抗菌剤を配合した洗浄剤が有効な治療選択として汎用される。しかし、ブドウ球菌増殖の要因としてはアトピー性皮膚炎によるバリア機能低下や多汗症などが検出される。したがって、ブドウ球菌感染を抗菌性洗浄剤で管理しながら、バリア機能低下や多汗をコントロールする洗浄剤を併用することで、理想的なコントロールが可能となる。

また、病変部位と非病変部、季節や年齢によっても洗浄剤を調整する必要がある。つまり、1種類の洗浄剤のみを漫然と継続してはならない。

保湿剤の考え方
保湿は洗浄で失われた成分の補充や皮膚表面の保護を目的とする。

保湿剤には油性基剤(スクワラン、ワセリン、動植物油など)、多価アルコール(グリセリン、プロピレングリコールなど)、天然保湿因子、生体高分子(コラーゲン、ヒアルロン酸、コンドロイチン硫酸など)、細胞間脂質(セラミド関連物質、コレステロール、脂肪酸など)、尿素、乳酸、種々のアミノ酸があげられる。

洗浄剤の中には保湿剤を配合した製剤も存在するが、そのような製剤で洗浄した後も保湿剤を使用することが推奨される。また、洗浄後以外にも日常的に保湿剤を使用することで健康な皮膚を維持することができる。

洗浄法
①ソリューションの選択
温水(水道水)が一般的に用いられるが、症例の体温よりは低温(35℃以下)に設定することが好ましい。高温では皮膚のpHがアルカリ性に傾く可能性や、洗浄後に乾燥・かゆみが生じる可能性がある。

温水以外には微細な泡で洗浄力が期待されるマイクロバブル、血流改善効果の期待される炭酸泉、抗菌効果の期待されるオゾン水なども有効なソリューションである。入浴は皮膚全体の処置が容易であり、血液循環の改善も期待できる(写真43)。

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写真43:炭酸泉浴などは、低温浴においても血流改善効果が高い。

単純温浴では生体の保湿成分が漏出する可能性があるため、保湿剤を加えることが望ましい。また、入浴剤として炭酸泉、硫黄泉などが利用可能である。

②すすぎ
溶剤型洗浄剤は、すすぎ前に皮膚になじませる(写真44)。

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写真44:クレンジングオイルの使用。すすぎを実施する前に皮脂汚れが強い部分に適応する。(本記事で使用しているのは、AFLOAT DOG VETシリーズ クレンジングオイル)

すすぎの工程で落ちる汚れはできるだけ除去する。また、皮膚を十分に濡らし、角質を軟化させる(写真45)。

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写真45:すすぎでは、被毛と皮膚に十分に水を含ませるとともに、汚れをできるだけ除去する。

③洗浄剤の準備/塗布
製剤にもよるが、基本的にシャンプーなどの洗浄剤は事前に泡立てる(写真46)。

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写真46:洗浄剤の準備。スポンジを用いて、シャンプー剤を泡立てている。

スポンジや泡立て器を利用することで、きめの細かい泡をつくることが可能である。ポンプ式容器で泡が生成される便利な製剤も利用可能である(写真47)。

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写真47:ポンプ式の製剤。ポンプをプッシュすることで、泡が生成される便利な製剤も存在する。(本記事で使用しているのは、AFLOAT DOG VETシリーズ 低刺激 シャンプー)

症例の皮膚に洗浄剤を直接塗布して泡立てることは推奨されない。泡立てた洗浄剤を被毛の走行に沿って(頭から尾など)やさしく塗布する。塗布時には掌を使って皮膚をマッサージするとよい(写真48)。

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写真48:洗浄剤は被毛の走行に沿って、皮膚を掌でマッサージするように塗布する。

被毛の走行に逆らってゴシゴシ洗ってしまうと、シャンプー後の皮膚トラブルを起こす可能性がある。推奨適応時間が存在する製剤では塗布後に静置するが、症例の状態を見極めながら実施する。

④すすぎとコンディショニング
洗浄剤が残らないように丁寧にすすぎを行う。洗浄に要した時間よりも、すすぎの時間が長くなるように意識する。

複数の製剤を使用する場合は、すすぎを行った後に再度洗浄剤を準備・塗布する。洗浄が終了した際は保湿成分を含む製剤でコンディショニングを行う(写真49)。

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写真49:洗浄剤が残らないようにすすぎを行い、保湿成分を含む製剤を塗布する(A)。洗浄後に行う場合は、掛け流しの製剤が簡便である(B)。(本記事で使用しているのは、AFLOAT DOG VETシリーズ モイスチャライズ)

⑤ドライイング
ドライイングは吸水性の高いタオルを用いて行う(写真50)。

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写真50:皮膚トラブルがある場合はドライヤーの使用を最小限にとどめるため、タオルドライで可能な限り水分を除去する。

皮膚トラブルのある症例では、ドライヤーやスリッカーの過度な使用は避ける。

ドライヤーを使用する際には皮膚表面が過度に熱くならないように、温度と適応距離に注意する。ドライヤーで皮膚表面が熱くなった際には、冷風でクールダウンする。

ドライイング後に乾燥が認められる場合は、部分的に保湿スプレーなどを使用する。


次回は「処置(外用剤塗布と耳処置)」!
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次回は、「処置(外用剤塗布と耳処置)」についてです。

外用剤を塗布する際のポイントや、耳道内洗浄のコツなどについてご紹介します。ぜひ、ご期待ください。

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ライター紹介

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山口 杏

ブライダル業界・インフラ業界・そして前職ではペットフード業界と、さまざまな業界を渡り歩く編集者。「情報を制する者が、マーケットを制す!」という思いから、Vet Lifeを通じ、飼い主さんのニーズや獣医療業界の最前線情報を届ける、お役立ちライターに成長したいと考えている。趣味は動物ブログを読むこと。好きな犬は柴犬、猫は茶トラ。

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